・バリュエーションの具体的な手法を知りたい
・それぞれの手法の特徴や使い分け方を知りたい
ゴッチにお任せください!
この記事の内容
- バリュエーション手法が複数存在する背景
- インカムアプローチの解説
- マーケットアプローチの解説
- コストアプローチの解説
こんにちは!ゴッチです!
ゴリーマン|コンサル(FAS)でFA←JTC動物園で現場業務|未経験からコンサル転身後、働きながらUSCPA合格|USCPAコーチングでこれまでに36名の科目合格をサポート|現在はCFA勉強中(Level2 Candidate)
☆USCPA/米国公認会計士☆宅地建物取引士
この記事では、バリュエーション(企業価値評価)で使われる手法とそれぞれの特徴をご紹介していきます。
バリュエーションには大きく3つのアプローチがあり、それぞれの特徴を活かして使用していく必要があります。
主な想定読者はFA(M&Aアドバイザー)を目指す転職希望者のほか、駆け出しのFA、バリュエーションの基礎の理解を深めたいと思っている方などです。
まずは代表的な手法を理解し、その中でも重要なものについて理解を深めていきましょう。
最後まで読んでいただければ、バリュエーション手法の全体像がわかり、FASの厳しい面接に耐えきれるようになります!
それでは早速ご紹介していきます!
バリュエーション手法が複数存在する背景
バリュエーション(企業価値評価)とは、その名の通り、企業の価値を評価することで、上の図の企業価値を求めることです。
なお日本では、図の企業価値と記載の部分を事業価値とし、それに非事業資産を加えたものを企業価値とするのが一般的です。グローバルスタンダードでは、企業価値はキャッシュフローを生み出す本業部分の価値として考えるのが一般的ですので、この記事では上記の考え方を紹介しています。ただ、どちらの考え方でも最後に求める株主価値は同じになります。
計算式を見ると、企業価値=事業資産+のれん価値-事業負債となっていることがわかります。
事業資産と事業負債はデータとして存在するはずなので、企業価値を算定するためにはのれん価値を求めれば良いことになります。
簡単に言うと対象企業の「ブランド力」のことで、無形の営業資産と考えます
しかし、残念ながらブランド力をこのB/Sの左側だけを使って求めることはできません。
なぜなら、ブランド力などという無形の資産をそれ単体で評価するのは無理があるからです。
それじゃあ、どうやって企業価値を算定するんだ!?
そこでB/Sの左右同額の性質を使って、右側から計算します。
計算式を見ると、企業価値=ネット有利子負債+株主価値となっていることがわかります。
これら2つ(または株主価値のみ)を対象企業の置かれた状況に応じて計算するために複数のバリュエーション手法が存在しており、それらを使い分ける必要があるのです。
状況次第と言ってもそこまで細かく区分けされているわけではなく、大きく以下の3つの手法があります。
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
- コストアプローチ
一応3つの手法がありますが、一番使われるのは継続企業の価値評価に適したインカムアプローチです。
それでは、それぞれのバリュエーション手法についてご紹介していきます。
インカムアプローチ
ここからは具体的な手法の解説をしていきます。
まずは将来の収益力を価値に反映させることができる、最もオーソドックスな手法であるインカムアプローチのご紹介です。
概要
インカムアプローチは将来獲得することが期待される利益やキャッシュフローに基づいて対象企業の価値を算定する手法です。
インカムアプローチの具体的な手法と概要は以下のとおりです。
評価手法 | 概要 |
---|---|
DCF(ディスカウンテッドキャッシュフロー)法 | 企業が将来に渡って生み出すキャッシュフローを加重平均資本コスト(WACC)で現在価値に割り引いて企業価値を算定する |
配当還元法 | 株主への配当金の期待値を一定の割引率で割り引くことで株主価値を直接的に算定する |
収益還元法 | 会計上の利益を一定の割引率で割り引くことで企業価値または事業価値を算定する |
実務においてはDCF法が一番よく使われます。
表に記載の通り、DCF法は企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引く手法です。
いきなりキャッシュフローとか現在価値とか言われてびっくり仰天されている方もいらっしゃるかもしれませんが、詳細は別記事に譲り、ここでは「インカムアプローチ、その中でもDCF法が実務においては最も使用される手法なんだな」ということだけ理解していただければと思います。
メリット
インカムアプローチは対象企業がもつ固有の価値を反映させることができるのが一番のメリットです。
また将来の収益力を価値に反映させることができるのも特徴です。
また割引率にはリスクフリーレートやエクイティリスクプレミアムなどの市場の環境についても一定程度価値に織り込むことができます。
投資家が投資期間内に確実に実現できると考える利回り(例:10年物国債など)
投資家は、数ある投資対象から株式市場を選択しており、そのリスクに対応するプレミアム分(TOPIXと国債の投資収益率の差をリスクプレミアムとすることが一般的)
これらの理由から、インカムアプローチは継続企業を評価する際には最も理論的な手法と言われています。
デメリット
ここまで聞くとインカムアプローチ最強やんと思っていらっしゃる方もいるかもしれませんが、デメリットもあります。
インカムアプローチは事業計画から導かれる将来の収益力から企業の価値を評価しています。
事業計画はあくまで「計画」であり、実現するかどうかはわかりませんし、作成者の恣意性が排除しきれません。
つまり客観性に欠けるのです。
また価値算定の性質上、割引率や成長率によって大きく価値が変動します。
真に適正な割引率や成長率を導くことは難しく、これらの計算次第で億単位で価値が上下する可能性もあります。
客観性に欠けるということにもつながりますが、不確実性が高い手法であるとも言えます。
これらのデメリットがあることから、継続企業を評価する際でも次にご紹介するマーケットアプローチを併用して企業価値を評価することが一般的です。
マーケットアプローチ
続いて、マーケットアプローチのご紹介です。
その名の通り、マーケットの情報から価値評価を行います。
概要
マーケットアプローチは、市場価格や取引価格などのマーケットデータに基づいて企業価値を算定する手法です。
マーケットアプローチの具体的な手法と概要は以下のとおりです。
評価手法 | 概要 |
---|---|
市場株価法 | 評価対象企業の一定期間内の市場株価を参照して株主価値を算定する |
類似会社比較(マルチプル)法 | 事業内容や事業規模が類似する上場企業の利益やEBITDAなどの経営指標の倍率を対象会社の経営指標に乗じることで企業価値を算定する |
類似取引比較法 | これまでに市場で行われてきたM&A取引において成立した売買価格に基づいて企業価値を算定する |
実務においては市場株価法、類似会社比較法がよく使用されます。
インカムアプローチよりも難易度が低く、ちゃちゃっと調べればできてしまうと思いますので詳細については割愛します。
メリット
マーケットアプローチのメリットはなんと言っても客観性です。
実際に大勢の人が取引を行うマーケットにおいて決定づけられた価格や取引事例は、一般的には合理的に形成、成立されていると考えることができるからです。
また株価や取引価格には、将来のキャッシュフローへの期待値も含まれていることから、一定程度、将来の収益力も反映されていると考えることもできます。
デメリット
デメリットとしては、比較する類似会社の選定に主観が介入してしまう点です。
さっき客観性あるって言ったのに!と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、類似会社を選定したあとの客観性には文句のつけようがないのはたしかです。
しかし、そもそもの類似会社の選定において、恣意性を排除しきれないのです。
ですので類似会社の選定は慎重に行い、どういった選定基準で選定したのかを明確かつ論理的に説明できるようにしておく必要があります。
また対象会社の業種によっては類似会社の選定が困難である場合もありますので、その際はマーケットアプローチの採用は難しくなります。
対象企業固有の事情を価値に反映させることができないのもデメリットです。
類似事業を展開していて、似たような経営指標の企業であれば、どの企業も同じような価値算定に終止してしまうわけです。
こういったデメリットがあることから、マーケットアプローチは客観性に欠けるインカムアプローチを補完する目的で使用されます。
コストアプローチ
最後にコストアプローチのご紹介です。
コストアプローチはアセットアプローチと呼ばれることもあります。
概要
コストアプローチは、対象企業の貸借対照表(B/S)の純資産から株主価値を算定する手法です。
コストアプローチの具体的な手法と概要は以下のとおりです。
評価手法 | 概要 |
---|---|
簿価純資産法 | 対象企業の資産と負債の帳簿価額から純資産額(株主価値)を算定する |
修正簿価純資産(時価純資産)法 | 対象企業の資産と負債を時価で再評価した上で純資産額(株主価値)を算定する |
そもそもコストアプローチを使用することはめったにありませんが、あえて言うならば修正簿価純資産法がよく使用されます。
実務的には、すべての資産や負債を時価で評価することは難しいので、主要な土地や建物、有価証券等のみを時価評価することになります。
メリット
コストアプローチは、ある時点での純資産に基づいて価値評価を行うため、客観性に優れています。
基本的には誰がやってもほぼ同様(修正簿価純資産方の場合、若干の差は生じる)の価値算定ができます。
またこれまでご紹介してきた手法の中では、圧倒的に価値算定の難易度が低いです。
価値算定にかかる労力も少なく済むため、スピーディーに価値算定ができるのもメリットと言えるでしょう。
デメリット
コストアプローチの最大のデメリットは、適合する場合が非常に限定的ということです。
コストアプローチが適合できるのは、対象企業が以下のような場合のみです。
- 精算手続き中、または清算予定
- 赤字体質
- 将来の収益獲得力がない
基本的には清算する企業を前提としているため、継続していく多くの企業の価値算定には使用できません。
また、継続企業の勝ち算定に使用できない理由でもありますが、将来の収益力を全く反映できないのもデメリットです。
M&Aにおいて使用することはほぼないので、コストアプローチという手法があり、清算する企業の価値算定にしか使わないということだけ知っていれば大丈夫です。
まとめ
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
これまでご紹介してきたバリュエーションの手法をまとめて表にしました。
みなさんもこれでバリュエーションの全体像が理解でき、FAレベルにおいてはバリュエーションのセミプロになれたと思います。
未経験からのFAS転職を目指す方はこの全体像を理解した上で、DCF法とマルチプル法(類似会社比較)を身につければ完璧です!
これらを身につけるためのおすすめの書籍は以下の記事でご紹介しています。
皆様のFAS転職を心よりお祈り申し上げます